細田守監督の待望の最新作『果てしなきスカーレット』の公開が間近に迫っている。緻密で美しい背景美術と、リアリティとファンタジーが融合した物語で多くのファンを魅了してきた細田監督。その作品の大きな特徴の一つが、実在する日本の風景を巧みに取り入れた舞台設定である。何気ない街角や雄大な自然が、スクリーンの中ではキャラクターたちの存在を輝かせる重要な役割を担っているのだ。
今回は『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』『竜とそばかすの姫』の4作品から、ゆかりの地を紹介。映画を思い出しながら、現実に広がる“細田ワールド”を巡ってみよう。
※一部、作品の内容についての記述があります

『おおかみこどもの雨と雪』――母と子の物語が息づく富山の風景

本作は、狼男と恋に落ちた主人公・花が、その間に生まれた“おおかみこども”の姉弟、雪と雨を、都会の片隅、そして豊かな自然が残る田舎で懸命に育てる13年間の物語。主な舞台のモデルとなったのは、細田監督自身の出身地でもある富山県。特に、物語の核となる家族の家や姉弟が駆け回った大自然は、今も訪れる人々の心を惹きつけてやまない。
スポット(1):花と雨と雪が暮らした温もりの家「山崎家住宅」(富山県上市町)
花と子どもたちが移り住み、数々の喜怒哀楽を刻んだあの家のモデルが、富山県上市町に実在する古民家「山崎家住宅」だ。登録有形文化財として築130年を超える歴史を持ち、映画制作にあたっては細田監督がロケハン中に見つけてひと目惚れした場所だという。瓦屋根の趣ある佇まい、雪と雨が傷をつけた柱、家族が食事をとった囲炉裏など、映画で見たままの風景が目の前に広がる。縁側に座れば、畑仕事に精を出す花の姿や、庭を元気に走り回る子どもたちの笑い声が聞こえてくるようだ。


スポット(2):澄んだ青に心洗われる“雨”の舞台「みくりが池」(富山県立山町)
おおかみとして生きる道を選んだ雨が、山の主であるキツネの先生と駆け回った末にたどり着く、神秘的な湖。そのモデルとなったのが、立山黒部アルペンルートの室堂平にある「みくりが池」である。標高約2400メートルに広がる火山湖で、雪解け水が満ちた湖面が立山連峰を映し出す光景は、まさに絶景のひと言。実際に訪れれば、険しくも美しい山の風景の中に細田監督が描いた“生命の息吹”を肌で感じられるはずだ。


『バケモノの子』――渋谷と異世界をつなぐ冒険の舞台へ

孤独な少年・九太(きゅうた)が、バケモノの熊徹(くまてつ)と出会い、強さを求めて成長していく姿を描いた物語。人間界と、熊徹らが住むバケモノの世界「渋天街」という二つの世界が交差する場所として、東京・渋谷の街が印象的に描かれている。現実の渋谷の風景が、異世界への入口として機能する巧みな演出は、多くの観客を驚かせた。
スポット(1):日常と非日常が隣り合わせ「渋谷スクランブル交差点」(東京都渋谷区)
現実と異世界をつなぐ象徴的な場所として描かれたのが、「渋谷スクランブル交差点」。母を亡くし、家を飛び出した九太が独りさまようシーンや、クジラとなった九太の最大のライバル・一郎彦が現れるクライマックスにも登場する。現実にこの場所に立つと、絶え間なく人々が行き交うエネルギーと躍動感に圧倒されるが、一方でそれに相反するような九太の孤独と希望、一郎彦の内なる憎しみが入り混じる空気を感じてみるのもおもしろい。


スポット(2):戦いと絆を象徴する近未来的建築「国立代々木競技場」(東京都渋谷区)
九太が人間界で出会うヒロイン・楓との交流の場として描かれたのが「国立代々木競技場」の周辺である。建築家・丹下健三の設計によるダイナミックな曲線屋根は、アニメーションにおける“異世界の壮麗さ”と響き合う。物語のラスト、九太と一郎彦の最終決戦の場としても登場し、激しい戦いの背景として強烈なインパクトを残した。このほかにも、「渋谷駅南口・高架下」や「渋谷区立中央図書館」など、渋谷駅周辺には数多くのモデルとなった場所が点在しており、街を歩くだけで九太の足跡をたどることができる。


『未来のミライ』――身近な風景に広がるくんちゃんの小さな冒険

甘えん坊の4歳の男の子・くんちゃんが、未来からやってきた妹・ミライちゃんと出会い、時空を超えた不思議な冒険を通して成長していく物語。物語の多くは家の中や庭で展開されるが、その冒険の舞台は横浜や東京など、私たちの身近な場所にインスピレーションを得て描かれている。
スポット(1):自転車の練習をした公園「根岸森林公園」(神奈川県横浜市)
くんちゃんが、妹への嫉妬から父親に反発し、補助輪なしの自転車の練習に打ち込む公園。そのモデルとなったのが、横浜市中区に広がる「根岸森林公園」だ。なだらかな起伏のある広大な芝生広場が特徴で、くんちゃんが何度も転びながら練習に励んだ風景と重なる。家族連れでにぎわう休日の公園を訪れれば、映画に描かれた親子のやり取りが、この公園の開放的な風景から生まれたものだと感じることができるだろう。


スポット(2):くんちゃんが初めて自分と向き合い成長を遂げる場所「東京駅」(東京都千代田区)
「東京駅」は、家出をしたくんちゃんが迷子になる印象的なシーンに登場。現実と幻想の狭間で、彼が初めて自分の足で立ち上がる象徴的な場所だ。作中、人々が行き交う姿や列車の音、光の差し込み方などは“近未来の東京駅”の構内を演出しているが、赤レンガ造りの丸の内駅舎はほぼそのままの形で描かれており、荘厳な外観やドーム天井のデザインはなんとも美しい。実際に東京駅を訪れ、ドームを見上げれば、くんちゃんが体験した時空を超えた冒険の入口が、そこにあるかのように感じられるに違いない。


『竜とそばかすの姫』――高知の清流が映す、少女の心の成長

高知県の自然豊かな田舎町に住む女子高生・すずが、インターネット上の仮想世界<U>で“ベル”として歌姫になり、自分の殻を破っていく物語。すずが暮らす現実世界のモデルとして、高知県の息をのむほど美しい風景が多数描かれており、その再現度の高さが大きな話題となった。高知の観光情報を発信するウェブサイト「こうち旅ネット」では、ゆかりの地のマップも公開されているので、活用するのもおすすめだ。
スポット(1):すずの通学路にかかる「浅尾沈下橋」(高知県越知町)
高知県越知町にある「浅尾沈下橋(あそおちんかばし)」は、主人公・すずの通学路として登場する橋のモデル。欄干がなく、川の増水時に水中に沈むように設計された沈下橋は、高知の原風景の一つ。特にここは、橋と周囲の山々、川の青さが織りなす景観が映画のシーンとそっくりで、まるで物語の世界に迷い込んだかのような感覚にさせてくれる。橋の上に立てば、すずがイヤホンで音楽を聴きながら過ごした日常が目に浮かぶようだ。


スポット(2):“仁淀ブルー”が広がる幻想の舞台「安居渓谷 水晶淵」(高知県仁淀川町)
すずが幼いころ、母との思い出の場所として回想シーンで一瞬だけ登場する、神秘的な清流の地のモデルが「安居渓谷 水晶淵」。仁淀川(によどがわ)の支流に位置し、透き通る青が“仁淀ブルー”と呼ばれる人気スポットだ。太陽の光が差し込むと、川底の石まで透き通って見えるほどの透明度と、吸い込まれそうなほどの青さが、映画の幻想的な空気を思い起こさせてくれる。


アニメのゆかりの地を巡る体験は、作品の世界観を五感で体感したり、キャラクターたちの息づかいや感情をより身近に感じられる特別なものだ。スクリーン越しに見ていた景色を自らの目で見たときの感動は、物語への理解を一層深め、キャラクターとの一体感をもたらしてくれるだろう。細田監督が作品に込めた風景へのこだわりや、その場所にキャラクターを立たせた意味を、肌で感じることができるはず。最新作『果てしなきスカーレット』の公開を前に、これまでの作品を改めて見返し、その足跡をたどる旅に出てみては?きっと、映画を何倍にも楽しむための、最高の準備になるに違いない。【ウォーカープラス/PR】
取材・文=水島彩恵
■原作小説『果てしなきスカーレット』
著:細田 守
角川文庫 定価 946円(本体 860円+税)
https://kadobun.jp/special/scarlet/
2025年10月24日(金)発売

■児童文庫版『果てしなきスカーレット』
作:細田 守 挿絵:YUME
角川つばさ文庫 定価 946円(本体 860円+税)
https://tsubasabunko.jp/product/hateshinakisukarred/322505000194.html
2025年10月24日(金)発売

■映画『果てしなきスカーレット』
原作・脚本・監督:細田 守
https://scarlet-movie.jp/
(C)2025 スタジオ地図
2025年11月21日(金)公開

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